「Tìm em nơi đâu」または「tim em noi dau closeup」というキーワードでGoogle検索を行うと、称賛から批判まで、数え切れないほど多様な評価が表示されます。バイラルの観点から見ると、本キャンペーンはベトナムにおいて成功した事例と言えます。また、オンラインキャンペーンという視点においても、非常に価値の高いショーケースとなっています。
背景(Context)
ベトナムの若者の多くは、感情を表現することに対して受動的で内気な傾向があります。15〜25歳の高校生、大学生、若手社会人をターゲットとする歯磨き粉ブランドであるCloseupは、「自信を持って恋を探そう(Confidently seek love)」というメッセージを通じて、若者がより大胆かつ前向きに愛情を表現できるよう後押しすることを目指しました。 「Tìm em nơi đâu(君はどこにいるの?)」キャンペーンは、この目標を実現すると同時に、若年層の消費者との結びつきをより強固にするために企画されたものです。
目的(Objectives)
・ターゲット層におけるブランド認知度の向上 ・若者が自信を持ち、積極的に愛を表現することを促進する
戦略(Strategy)
Closeupは、インターネット上で恋を探す一人の大学生の架空のストーリーを軸に、若者たちが自分の気持ちを自信を持って、そして大胆に表現することを後押ししました。このメッセージは、ブランドが掲げるスローガン「Confidently seek love(自信を持って恋を探そう)」と強く一致しています。成功すれば大きなバイラル効果を生み出す可能性を秘めた、巧みで引き込まれるアイデアでした。
しかし、当時のベトナムではバイラルキャンペーン自体がまだ新しく、このストーリーには多くのリスクが伴っていました。詳しく見ていくと、好奇心旺盛なユーザーや競合によって突かれかねない弱点が数多く存在していました。架空の物語を用いる手法は、コミュニティからの反発を招く可能性もあります。さらに、物語をどのように完結させるかという点も大きな課題であり、それ以外にも数えきれないほどの障害が存在していました。
まず評価すべき点は、この大胆かつリスクの高いアイデアを実行することを決断したブランドとエージェンシーの強い覚悟です。多くのブランドが「ユニークなアイデア」を求めながらも、実際にはここまで踏み込むことを避けがちな中、Closeupはその勇気ある挑戦を選びました。そして、その決断は見事に報われる結果となったのです。
クリエイティブアイデア(Creative Idea)
「Tìm em nơi đâu」― キャンペーンの実行
本キャンペーンは、以下の4つのフェーズに分けて展開されました。
フェーズ1 :Yahoo 360ブログ、YouTube、フォーラムを通じてストーリーをバイラル拡散し、若者の間で話題を創出。
フェーズ2 :集まった世間の注目を活用し、セミナー、イベント、プレス、テレビ、PRを通じて「Confidently seek love(自信を持って恋を探そう)」というメッセージを発信。
フェーズ3 :オンラインコンテストを実施し、若者がメッセージと双方向に関わるためのプラットフォームを構築。
フェーズ4 :バレンタインデー当日に開催された「バレンタイン・フェスティバル」イベントでキャンペーンを締めくくり。
フェーズ1 ― ソーシャルメディア
物語は、Yahoo 360、YouTube、フォーラムといった主要チャネルを通じてインターネット上に広がり始めました。Yahoo 360が中心的なハブとして機能し、YouTubeやフォーラム、その他のソーシャルメディアがそれを支える役割を担いました。このフェーズは、ストーリーが自然な形で展開され、コミュニティの共感を得た点で非常に成功したと言えます。
ブログには、夢見る若者の心に響く感情豊かでセンチメンタルな投稿が数多く掲載されました。YouTubeでは、時には感動的な楽曲、時には印象的なアニメーション、また時には少し風変わりな表現など、多様なスタイルでクリエイティブな動画が制作され、視聴者に新鮮な体験を提供しました。フォーラムも非常に活発で、キャンペーンの拡散と話題化に大きく貢献しました。
フェーズ2 ― PR
一定期間にわたる集中的なプロモーションの後、このブログはYahoo 360上で非常に高い人気を獲得しました。ハンサムで才能があり、ロマンチックな青年「ナム(Nam)」の名前も広く知られるようになりました。この段階で、ブランドは物語を自然に一段引き上げる形で介入しました。
オフラインでは、「恋愛」や「自信の大切さ」をテーマにしたセミナーなどの活動が実施され、ナムのストーリーは若者にとっての代表的な実例として巧みに組み込まれました。
主要新聞や人気ブログ(OnlyUなど)に掲載されたPR記事によって、ナムは徐々に注目の存在となっていきました。この頃になると、特にマーケターなどの洞察力のある人々は、キャンペーンの意図に気づき始め、物語の真相に関する分析や推測が数多く出回るようになります。同時に、否定的な意見も現れました。しかし、こうした賛否両論こそが、かえってストーリーをより魅力的で引き込まれるものにしました。
フェーズ3 ― ウェブサイト
Closeupは、若者が自信を持って恋を探すことを後押しする目的で、正式にナムの「恋探し」に参加しました。キャンペーン用サイト「timem.com.vn」が立ち上げられ、ナムの恋の行方を予測することをテーマに、4つのコンテストが同時に実施されました。マスメディアも活用し、参加者の獲得が図られました。Closeupは、ナムの恋探しを口コミ(ワード・オブ・マウス)効果によって社会現象的な出来事へと高めることを狙っていました。
アイデア自体は合理的でしたが、実行面では必ずしも成功したとは言えませんでした。マスメディアの活用により、ストーリーの「自然さ」が薄れ、ナムの急速な有名化によって、ブランド側が物語の流れをコントロールしたり、疑念やクライシスに対応したりすることが難しくなったように見受けられました。
多くのマーケターや有名ブロガーが議論に参加し、Openshare、Chudoanhnghiep、個人ブログなどのプラットフォームでは反発の波が広がりました。当時キャンペーンを追っていた人々は、その熱狂的な空気を今でも鮮明に思い出せるでしょう。論争、支持、便乗、興奮が入り混じり、非常に騒がしく熱量の高い環境が生み出されていました。
フェーズ4 ― イベント
キャンペーンのハイライトとなったのは、2010年2月13日にファン・ディン・フン(Phan Dinh Phung)スタジアムで開催された「500組キスイベント」でした。ナムのストーリーが徐々に話題性を失い始めていたタイミングで、この刺激的なイベントは数十万人の若者とオンラインメディアの注目を一気に集めました。
大小さまざまなメディアがこのイベントを取り上げ、大きな話題を生み出しました。その結果、ウェブサイト「timem.com.vn」は1日あたり4万人以上の訪問者を記録するほどアクセスが急増しました。また、ナムのブログにも、イベントに関する質問が殺到しました。
このフィナーレにより、キャンペーンは完璧かつ大成功のうちに幕を閉じました。
結果
・ブランドの売上は45%増加。 ・エージェンシーは2008~2009年の「Asian Marketing Effectiveness Awards」を受賞。
結論
「Tìm em nơi đâu」は、ベトナムにおけるオンラインマーケティング黎明期を象徴する、まさに画期的なキャンペーンでした。本キャンペーンは、その後多くのブランドが象徴的なデジタルキャンペーンを次々と展開するきっかけとなった“第一弾”とも言える存在です。
VIDEO
( 出典 : BrandsVietnam)